残業代が支払われていない方
当事務所では、残業代未払い等の残業代請求等も積極的に取り扱っております。
1 残業代請求原則論
1日8時間、1週40時間を超えた労働時間は原則として時間外労働となりますので、当該時間以上働けば原則として残業代が請求できます。
とはいえ、残業代の請求を認めてもらうためには、労働者の方において、1日8時間、週40時間以上働いた事実を証明しなければなりません。
この実労働時間を認定するための証拠としては、①タイムカード、②業務日報、③電子メールの送受信時刻、PCの立ち上げ時刻(シャットダウン時刻)が明らかにできる資料等が考えられます。また、会社のビルの出入りの時刻が記録されるような会社に勤務されている方は、ビルの出入りの時刻が分かる記録も証拠となります。
このように、残業代を請求するためには、ご自身が実際に働いた時間を証明できる証拠を集めることが重要です。
証拠がない場合でも、自分で出退勤時刻を正確に記録する等証拠を作成することで代替できます。しかしながら、会社側からは、記録されている出退勤時刻が信用できない等と争われる可能性がありますので、パソコンの立ち上げ時刻やシャットダウン時刻を写真に収めたりする等職場にいたことが分かるような証拠と一緒に残しておく必要があります。
2 想定される会社側からの反論
残業代請求では、会社側から次のような反論がなされることがあります。
(1)労働時間の認定根拠となる証拠が信用できない
タイムカードがあれば、裁判所は原則としてタイムカード打刻時間を前提に労働時間を認定しますが、タイムカードがない場合、証拠の信用性が争われ、実際には残業していない等実労働時間が争われるケースがままあります。
このような場合には、拠り処となる証拠を補強する事実をいかに積み上げられるかが重要になってきます。そのため、タイムカードがない場合には、既に述べましたように、PCの立ち上げ時刻(シャットダウン時刻)が明らかにできる資料等当該時刻に職場にいたことが分かるような証拠を一緒に残しておくことが必要です。
(2)固定残業代
会社側から、支払っている給与の中に残業代が含まれているので、未払いはないとの反論がされることもあります。
しかしながら、固定残業代の合意が有効となるためには、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金の部分とが明確に区分されていなければならないとされており、このような要件を充足するかたちで、固定残業代の合意がなされている会社はなかなか存在しません。固定残業代の合意の有効性判断は厳しく審査されているのが裁判実務です。
(3)「管理職」であるために残業代は発生しない
会社側からは、管理職には残業代を支払う必要はないとの反論がなされることがあります。
この点、管理監督者には、労働基準法上の時間外労働の規定が適用されません。そのため、管理監督者には、残業代は支払われないこととなります(もっとも、深夜労働に対する割増賃金は支払わなければなりません)。この管理監督者とは、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指し、管理監督者に該当するか否かは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を考慮して判断されております。
以上のような判断枠組みで管理監督者該当性は判断されており、裁判所としては、管理監督者の抗弁を容易には認めません。
(4)裁量労働制を採用しているため、残業代を支払う必要はない
まれに、会社側から、裁量労働制の適用を受ける労働者であるから、残業代を支払う必要がないとの主張がなされることがあります。
裁量労働制を適用するためには、①労使協定の締結・届出、②業務の性質上労働時間の配分決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務として、省令で列挙された業務に該当すること(いわゆる対象業務)、③業務遂行の手段及び時間配分の決定等について、使用者から具体的な指示がなされる場合に該当しないことという要件を満たす必要があります。かかる要件を満たさない場合には、裁量労働制の適用はないこととなります。
3 消滅時効に注意
これまで、請求できる未払残業代は、2年間でした。そのため、残業代が2年以前のものであれば、消滅時効により権利が消滅していました。
しかしながら、債権法改正で消滅時効の制度が改正されたことに伴い、残業代の消滅時効も5年と改正されることになりました。もっとも、時効期間を直ちに5年と定めることは、労使関係を不安定化するおそれがあることから、経過措置を設けることとし、当面の間、残業代の消滅時効については、3年間とすることとなりました。
したがいまして、令和2年(2020年)4月以降に支払期日が到来する残業代については、当面の間、消滅時効が3年となります(経過措置経過後は5年)。なお、改正労働基準法が施行された令和2年4月1日より前の残業代については、従来どおり、時効は2年であることに注意が必要です。
以上のように、残業代の請求を行う場合には、専門的な知識が必要ですので、残業代が発生しているはずなのに、支払われていないと思われる方は、お気軽にご相談ください。